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赤坂の料亭。
それも裏通りにある、一見お店ってわからないような隠れ家的な感じ。
IT系の経営者は有名でおしゃれなレストランを好む。
それに対して今日は年配の経営者たち。
こういう一味違ったお店を使う。
それは、世代の違いとビジネスの仕方の違い。
今はそんなことはないけど、昔はビジネスと政治が直結していた。
だから、こういうところでの密談みたいなものも必要だった。
せまい戸口を入って、女将さんにお部屋に案内される。
庭には小さな日本庭園。
本当に大人の場所って感じでちょっと緊張感すら感じる。
今日のメンバーを頭に叩き込んである。
齋藤会長、70歳くらいのおじいさんって感じ。
関西の大手鉄道会社の会長。
沿線に百貨店も経営する。
でも、百貨店は最近頭打ちだから、最近は若者向けのファッションビルに力を入れている。
若い女性の指向をつかむのはわたしたちの得意分野。
スポンサーになってもらえる可能性はある。
それから、体格のがっちりした中堅商社の石津社長。65歳だったっけ。
歴史のある会社だけど、最近eコマースの会社に押されている。
特にファッション分野が弱いらしい。
中山議員。禿頭の太った政治家。
金権政治家って感じで、いい噂は聞かない。
なんかぎらぎらしてエッチそうで苦手な感じ。
でも、今の政治の世界ではそういうイメージってあんまり受けなくて、
ちょっと主流からは外れているって感じ。
まあ、今日はオブザーバーってとこか。
紗枝の作ったデータはこんな感じ。
お部屋に入ると3人は先に来ていて雑談中。
とりあえず、挨拶をして、中山先生のとなりに招かれて座る。
なんか、違和感を感じる。
そう、中山先生のわたしを見る目が一瞬細まる。
まるで、品定めをするように…
でも、わかっている。
勉強会とは名前だけ、ここでは仕事の話にはならない。
相手はわたしをホステスとしてしか見ていない。
でも、仕事の話のとっかかりはできる。
そして、つま先をドアの中にいれたら、あとは優秀なスタッフがうまくやってくれる。
事務レベルの話はこの人たちと話してもしかたない。
「これはテレビで見るより別嬪さんやな」
齋藤会長が口を開く。
「あっ、それほどでも…」
「私も女優さんと御一緒することもありますが、これほど清楚でかわいい人はいないですね」
石津社長もわたしをほめる。
ビジネスのことでなく容姿をほめられる。
最初はそういうのに反発を覚えていた。
でも、それも慣れた。
広告塔になりきるのも戦略だ。
わたしは卆なく名刺交換を済ませる。
それから、ビールをひとりひとりについでいく。
「では、美人社長との出会いに乾杯しましょうか」
中山先生の音頭で、乾杯をして、今夜の宴は始まった。