8
「あっ、終わったの?」
店長と戦いながら、裕美さんはよそ見をする。
だめ、危ないよ・・・
その隙を店長は逃さない・・・・
両手を素早く突き出す・・・・
でも、それは空を切る・・・・
裕美さんは空中に逃れている・・・
人間わざとは思えないジャンプ・・・
宙で1回転して着地・・・
その地点に店長はもう回りこんでいる・・・
また手の甲で払う・・・・
まるで、蟷螂そのもの・・・
「見切ったよ。こんなの。」
裕美さんは手のひらでその拳を受け止める・・・
「ぎゃぁぁぁぁ」
大きな声を上げたのは店長・・・
手がありえない方向に捻じ曲がっていた・・・
何が起きたのかわからない・・・
裕美さんは店長の拳を受け止めて弾き返しただけ・・・
手を押さえてのたうちまわる店長・・・・
それに比べてなんでもなかったかのように真由子先輩と話す裕美さん・・・
「やっぱ、裕美さまにはかなわないわ。」
「でも、優華もなかなかだよ。1対1なら軽いでしょ?」
「そうですね。裕美さまほどじゃないけど。クスッ」
裕美さんはもがく店長を蹴り上げる・・・
中年の身体がサッカーボールのように宙に上がる・・・
後ろで手を組んだまま簡単に蹴っただけなのに・・・
それを真由子先輩が宙で蹴る・・・・
こっちはスピードの乗った鋭い蹴り・・・
店長の身体は美奈先輩の方へ弾かれる・・・・
ドサッと言う音を立てて美奈先輩の足元に落ちる・・・
もう、完全に失神している・・・
「ふぅん、やるのねっ」
心なしか声が震える美奈先輩・・・
「あなたもやるの?」
見下すような目の真由子先輩・・・
ナイフを取り出す美奈先輩・・・
でも、真由子先輩は構えて睨みつけるだけ・・・
「やめておいたほうがいいわ。わたしが言うこときいてたのは店長と木藤がいたから。あなたは関係ないわ」
まるで炎をまとったような迫力・・・
美奈先輩は肩を落として、ナイフを置く・・・
「いい子ね。ちゃんとプロの調教師に仕込んでもらうから。安心して、新しいお店で働いてね」
裕美さんも意地悪そうに言う・・・・
「あぁ・・・」
小さく呻いてその場に座り込む美奈先輩・・・
「NGなしの変態マゾとしてね・・・・」
その場で顔を覆って泣く美奈先輩を尻目に、店長の上に乗って飛び跳ねる・・・
「こいつとこいつはクビっ!」
木藤を指指し、店長の上から降りる・・・・
「それから・・・んーと・・・優華」
「はい・・・」
「お帰りっ。つぎの店長は優華だよっ」
満面の笑み・・・・
「ありがとうございます」
まるで、主君に仕える女騎士・・・・
そういうふうに膝をついて礼をする・・・
「それで、沙耶っ!」
呼びつけられて、ビクンってなってしまう。
「優華をサポートしてね。副店長って感じかなっ。あっ、今は優華じゃなかったっけ。」
やさしく微笑みかける・・・・
「はいっ・・・」
わたしもその言葉に元気に微笑んだ・・・
28
あれから、わたしは真由子先輩・・・・
いえ、優華先輩と暮らしている・・・
いつも一緒にいるって感じ・・・・
お風呂も寝るのもいっしょ・・・
そして・・・・
ときどき・・・・
お仕置きもしてもらう・・・・
やさしい先輩も・・・・
きびしい先輩も・・・・
意地悪な先輩も・・・・
みんな好きっ・・・・
それから・・・・
裕美さまのところにも一緒に連れて行ってもらう・・・
そう・・・・
優華先輩は昔、裕美さまの奴隷だったの・・・・
それも、大学の時から・・・・
そのお話は優華先輩に何度も聞かせてもらった・・・・
今日も・・・・
首輪をして・・・・
下着をつけずに・・・・
あの、お屋敷に・・・・
優華先輩もおそろいの首輪・・・・
そして・・・・
裕美さまのところには、佳奈子さんって言う人もいる・・・
すごく美人で優しい人だ・・・・
裕美さまの義理のおかあさんって言ってた・・・・
4人で一晩中愛し合う・・・・
SMのために作られた部屋・・・・
磔台・・・木馬・・・・椅子・・・・
そこには日常には必要のないものばかり・・・
でも、そこには一番必要なものがあった・・・
愛・・・
「そろそろ行こうか?」
優華先輩がわたしに声をかける・・・・
ドレッサーに映る先輩・・・・
わたしは振り返って、微笑み・・・・
甘えるように唇を重ねた・・・
了
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