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「ねぇ・・・優華・・・・」
「うん・・・・・」
優華がわたしにじゃれ付いてくる。本当に猫みたい。身体を擦り付けて鼻を鳴らす。
「あっ・・・違うの・・・」
優華の身体を離す。悲しそうにわたしを見る。
「どうしたの?」
「うん、ちょっと話があるの。」
真剣な目で優華を見る。今日は裕美が久しぶりに実家に帰った日・・・・。このときだけは私達はどちらも連れて行かれない。
「なに?話って?」
膝の上からソファーに座る優華。真剣な顔でわたしを見る。まるで、子供のような澄んだ大きな瞳・・・この子の純粋さが好きだった。裕美にもわたしにも真剣に自分の好きをぶつけてくる。優華の肩に手を置いてわたしも優華を見つめる。
「優華・・・わたしたちこのままでいいの?」
「えっ・・・うん・・・裕美さまも佳奈子さんも好きだし・・・・」
「うん、わたしもよ。でも、このままじゃダメだと思う。」
わたしは決心していた。そう・・・このまま奴隷として生きるのもいいと思っていたわたし・・・でも、ここにいる間にぽつりぽつりと裕美の凄絶な過去のことを聞き、このままじゃダメ・・・そう思ったのだ・・・・。
わたしは裕美って何不自由もなく育ったお嬢様だと思っていた。確かに裕福な家庭に育った彼女・・・でも裕美がこんなになるのもわかる気がした。自暴自棄・・・それが裕美をあらわす言葉・・・・裕美の強さ・・・それはどうなってもいいって強さ・・・そう一瞬で崩れそうな弱さを内包している・・・・。
彼女の過去は14歳の時に始まる。それまではやさしい父と母に愛されて育った彼女・・・でも優しかった母の死・・・・そして16の時に家に来た新しい母・・・彼女はその母になつけなかった。反発する裕美に邪悪な彼女の本性が引き出される。父親の前ではやさしい母を装う彼女・・・・しかし、あまりにも多忙な父は裕美と一緒にいられる時間が少なかった。継母は表面上だけ仲のいい母娘を装おうとした。彼女の昔の友達を集めて彼女を監禁した。1週間の父の出張・・・それは16歳の裕美を調教するには十分な時間だった。彼女は5人の男達の玩具にされた。そして、継母に忠誠を誓わされた。まるで白雪姫のような転落ストーリーだった。でも彼女のストーリーに七人の小人も王子さまも登場しない。孤独な裕美・・・父親のいない時は彼女の奴隷・・・父親のいるときは幸せな家族を演じる・・・・。でも、心の強い裕美は、継母の隙を狙った。いくらなんでも、彼女を学校にいかせないわけにはいかない。裕美は学校で牙を研いだ・・・今の生活から抜け出すために・・・。合気道の達人である女性教師・・・彼女に教えを乞いその技を吸収した。運動神経が人並みはずれていい裕美・・・1年で師匠を超えるようになる。それほどまでに裕美は追い詰められていた。でも、家では従順を装い、学校を卒業すると同時に家を出た・・・そのころには継母のとりまきも裕美を連れ戻すことはできなくなっていた。裕美が今のようなモンスターになった瞬間だった。これがわたしの聞いた悲しいストーリー。
今の裕美・・・優華とわたしに愛されることでバランスを保っている心・・・そういうものがわかってきた。調教のあと・・・わたしたちに甘える裕美・・・それは少女というにはあまりにも幼すぎる。幼児のまま・・・すこしも成長をしていないような感じがした。
「でも・・・・・」
泣き始める優華・・・たぶんわたしと同じこと思ってるんだ・・・優しい子・・・。優華を抱きしめる。
「うん、わたしが全部引き受けるから・・・優華は心配しなくていいの。」
「でも、どうすればいいの。」
「うん、ひとつだけ方法があるの。」
「えっ・・でも裕美さまが・・・」
「大丈夫・・・優華は何も知らなかったでいいの・・・全部わたしが勝手にしたこと・・・」
安心させるために唇を重ねる。それを受け止める優華・・・・その髪の毛を撫でる。ショートのさらさらした毛・・・・。それから唇を離す。優華に微笑む。優華は名残惜しそうな顔・・・・。
わたしは立ち上がると、置いていった裕美の携帯を手に取る。それは何台かある裕美の携帯のひとつ。わたしがあの場所で目にしたものだ。ボタンをおしてお目当ての番号を探す。それを探し当てると、わたしはボタンを押して耳に当てる。
「裕美さん?」
「あっ・・・美月です。」
「えっ?」
電話の相手は一瞬驚いた声を上げたが、また落ち着いたこえに戻る。
「どうしたの?」
「そうだったんだ・・・おかしいと思ってたんだ。」
ソファーの対面で微笑む女性・・・それは1度あっただけの真由美さん・・・・。そして彼女にいままでのことすべてを話した。
優華は部屋に残してきた。縛って転がしてきたのだ。そうしないと裕美が壊れるような気がした。それに優華が責められないために・・・・。仕方なかった・・・そう偽装した。
それから発信記録も残してきた。裕美の明晰な頭脳・・・たぶんわたしが何をしたのかわかってくれる。そして、裕美がわたしを取り戻しにくることも想像できた。
「あとは任せて・・・・ここではじまったことはわたしの責任・・・・」
「でも・・・裕美は・・・・」
「わかってるって・・・裕美さんのことは・・・・」
「ごめんなさい・・・・変なことに巻き込んで・・・」
「いいのよ・・・・大丈夫だから・・・たぶんあなたの期待に沿えると思うわ。」
なんかすごい大きい人。わたしの直感は間違ってなかった・・・真由美さんならなんとかしてくれる。なんか涙が滲んでくる。
いきなり真由美さんの携帯が重厚なクラシックのメロディを奏でる。オペラ?そんな感じの曲だ。
「フフさっそく来たわよ・・・・」
髪の毛を掻き揚げて携帯を耳に当てる・・・
「はい・・・・・」
「裕美さん?どうしたの?」
ここから聞いていても裕美の取り乱した声が聞こえる。たぶん相当の怒りを含んだ声だ。でも真由美さんは落ち着いて対応する。そして、携帯を切る。
「彼女・・・ここに来るって・・・・」
真由美さんはわたしにウインクし、何事もなかったかのようにわたしに微笑んだ。
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